
登記の懈怠と過料の制裁
会社の登記に関しては、原則として登記すべき期間(登記期間)が定められています。登記期間は、原則としてその登記の事由が発生したときから、本店の所在地においては2週間内、支店の所在地においては3週間内とされています(会社法第915条第1項、第930条第3項等)。
※「登記の事由が発生したとき」とは、それぞれの登記により異なりますが、新たに取締役が就任した場合は、その取締役が株主総会の決議で選任され、就任を承諾した日となります。
登記期間内に登記の申請を怠り、その後において申請をする場合であっても、登記申請は登記期間を経過していることを事由として却下されることはありませんが、登記の申請を怠った会社の代表者個人が過料(と呼ばれる反則金のようなもの)の制裁を受ける可能性があります(会社法第976条第1項第1号等)ので、注意が必要です。
このコラムでは、この過料について説明をいたしますので、登記期間を経過している会社の方などは、特に参考ください。
過料の制裁をうけるケース
登記期間を1日でも遅れて登記の申請をした全ての会社が、必ず過料の制裁を受けるかというと、そうではないようです。
では、どの程度登記の申請を遅れた場合にどの程度の過料の制裁を受けるかというと、この基準は明らかではありません。
当事務所のご相談者やご依頼者のお話を伺うと、登記の申請が1年遅れた会社の代表者に過料の制裁があるケースもあれば、5年遅れた会社の代表者に過料の制裁がないケースもあります。
推定になりますが、登記官または裁判所が、ある程度の裁量の範囲内で判断している考えられます。
私のイメージでは、登記の懈怠の過料は、自動車のスピード(速度超過)違反と同じようなもので、法定速度をオーバーすればするほど捕まりやすく、罰金・反則金 が高くなるのと同じように、登記の申請が怠れば怠るほど、制裁を受けやすく、過料の額も高くなる傾向があると考えています。
あくまで、私の感覚の話ですが、役員変更登記の申請を懈怠した場合、6か月以上の懈怠は15キロオーバー、1年以上の懈怠は20キロオーバー、5年以上の懈怠は40キロオーバーといったところでしょうか。。。※自動車に乗らない方には、分かりにくい例えですが、1年以上の懈怠から過料の制裁を受ける可能性が高くなってくると考えれます。
その他、遅れてしまった登記の申請内容や、管轄の法務局によっても扱いに違いが見られるので、上の例えはあくまでも参考程度にして頂き、登記申請の安全運転を心掛けて下さい。
過料の額
過料の額は、100万円以下の範囲で裁判所が決めます(会社法第976条第1項第1号等)。
登記の申請が遅れれば遅れるほど、高額になる傾向がありますが、この額の基準も明らかではありません。
いままで過料の制裁を受けたことがある方のお話を伺うと、実際に最高額の100万円の過料の制裁を受けた方はなく、おおよそ3万円から10万円の範囲の額でおさまっているようです。
私が知る限りの経験・伝聞という統計になりますが、1年遅れる毎に1万円から2万円程度という計算になっていると予想できます。
過料の通知がきたら
過料は、登記の申請が遅れた会社があることを知った『登記官』から『裁判所』にその事件が通知され、裁判所から(商業登記規則第118条)会社の代表者個人に通知によって知らされます。
この通知は、登記の申請後、しばらくしてから(数か月後)来ることが多いため、申請直後に過料の通知がこないからといって安心はできません。
通知書が届いたら、通知書に記載されている過料の金額を、会社の代表者個人が納付しなければいけません。
したがって、過料は、会社の経費・損金とすることができないため注意が必要です。
ちなみに、過料は、刑事罰ではなく、行政罰ですので、代表者に前科はつきません。
